
保護猫ってFIPになりやすいのか?
先日, あるニュースが目に留まりました。
「シェルターから譲渡された猫のFIP発症率は、わずか0.3%だった」というものです。
▼ 参照論文
https://doi.org/10.1177/1098612X261447040
一見、「シェルターから来た子でも安心なんだ!」と読めますよね。
でも私はこれを見て違和感を覚えたので、他の論文も調べ直したところ、見えてきたのは「シェルターが安全」という話ではなく、むしろその真逆。
「お家という環境が、いかに圧倒的な力で猫を守っているか」。
その「環境整備の重要性」が明らかだったので、今回はその内容をブログにまとめることにしました。
FIPって、そもそも何?
まず、FIP(猫伝染性腹膜炎)というのは、猫コロナウイルス(FCoV)というウイルスが体内で突然変異を起こして、致死的な病気に化けることで発症します。
ちなみに、発症するのは「2歳未満の若い猫」が圧倒的に多く、成猫やシニア猫での発症は比較的まれです。
かつては「致死率ほぼ100%の不治の病」と恐れられていましたが、現在は効果的な治療薬が登場し、早期に発見すれば十分に治療できる病気になりました。
そのため、必要以上に恐れすぎる必要はありません。
さらに大事なのが、「ウイルスを持っている」こと自体はFIPとは別の話、ということです。
FCoVに感染しても、ほとんどの猫は何も症状が出なかったり、軽いお腹の不調があるだけで回復します。FIPになるのは、あくまで一部の猫だけ。
つまり「コロナウイルスを持っている=FIP」ではないんです。
じゃあ、どんな猫がFIPを発症してしまうのか。
実は「外の猫」の方がクリーン?
「野良猫は病気を持っている」というイメージがあると思います。でも猫コロナウイルスに関しては、まったく逆のことが起きています。
米国国立衛生研究所(NIH)のデータベースに収録されている文献(PMC7150141)によると、
・野良猫や外猫のFCoV保有率:約12〜15%
・シェルター・多頭飼育環境:約50〜90%
なんでこんなに差があるのか?
FCoVの感染経路は「糞口感染」、つまり他の猫のウンチを介して広がります。
野良猫はウンチを土に埋めるし、紫外線や乾燥でウイルスはすぐに死にます。自分専用のトイレみたいなものだから、感染も広がりにくい。
一方、シェルターでは何匹もの猫が同じトイレを共有します。猫砂の中にウイルスが潜んで、猫がトイレに入るたびに足に付着して、毛づくろいで口に入る。
そういう「感染ループ」ができあがってしまうんです。
感染していても、FIPにはならない
「じゃあシェルターの多くはウイルスを持っているってこと…?」と思った方、その通りです。
でもここが重要なところで、ウイルスを持っていても、それがFIPに変異するかどうかは別の話なんです。
コロナウイルスの抗体陽性であっても、その中の9割以上の猫はFIPを発症することなく、普通に一生を終えます。
じゃあ、何が「発症してしまう一部の猫」を決めるのか。
実は、猫がもともと持つ「遺伝的な体質」が関係しています。ただし、遺伝的リスクがあっても必ず発症するわけではありません。
その変異の引き金を引いてしまうのが、「環境とストレス」です。
発症率を環境別で見てみると、こんなに違います。
・完全室内で1匹飼い(超低ストレス):約0.02%
・劣悪な過密環境・多頭崩壊施設:約5〜10%(アウトブレイクレベル)
▼ 参照データ・論文
The Cat Group (Policy Statement 5)
NIH PMC文献 (PMC7150141)

そして、FIPへの変異を誘発しやすいとされる状況が、論文では3つ指摘されています。
① 過密(常に他の猫の排泄物に触れる環境)
② 外科的手術直後(免疫が一時的に落ちるタイミング)
③ 環境の大きな変化(引っ越し・新しい猫のお迎えなど)
▼ 参照データ・論文
NIH PMC文献 (PMC7150141)
International Cat Care (iCatCare) 公式ガイド

ひとつずつ、具体的に考えてみましょう。
① 過密(多頭飼育環境)について
もし多頭飼育をされているなら、一番の対策は「トイレの数をできるだけ増やし、常に清潔に保つこと」です。
ウンチを介して広がるウイルスなので、こまめな掃除とトイレの増設によって、まだ感染していない猫たちへうつるのを防ぎやすくなります。
また、前提として大切なのが「そもそも猫の数を増やしすぎないこと」です。猫はもともと単独行動を好む動物であり、飼育頭数が3頭以上になると、相性問題やストレスによるトラブルが急増するという研究報告もあります。
② 外科的手術について
猫の手術として多いのは、避妊去勢、そして歯周病や口内炎などによる「抜歯」、あるいは病気治療のための手術です。
これらは猫の健康と命を守るために必要なものであり、「FIP発症リスクが怖いから手術をしない」という選択肢はありません。
ただ、抜歯や病気による手術に関しては、日頃の予防ケアやストレスを溜めない生活に整え、そもそも手術が必要になる事態を避けてあげるのが理想です。
③ 引っ越しや新しい猫のお迎えについて
生活していれば、引っ越しや新しい猫のお迎えなど、環境の大きな変化が避けられないこともありますよね。
だからこそ、これらのイベントは「とにかく慎重に、時間をかけて」進めてあげることが大切。
引っ越しなら愛猫の匂いがついたお気に入りのグッズをそのまま使い、新しい猫を迎えるときは数ヶ月単位でケージ越し・ドア越しから段階的に慣れさせていく。
急激な変化を避け、ソフトランディングさせてあげることが、最大のストレス対策になります。
さらに、①②③に共通するのはストレスです。
愛猫のストレスをできる限り下げて、安心して暮らせる環境を整えてあげること。それこそが、FIPから猫を守る最強の盾になります。
『過酷な環境にいたから』発症するんじゃなくて、『過酷な環境に居続けるから』発症する。
過去の環境ではなく、これからの暮らしこそが、その子の命を左右します。
個別アドバイスでお聞きするお悩みの中には、「粗相や猫同士の不仲が、ネットの情報を試しても何年も解決しない」というものも少なくありません。
でも、その子自身の本当の原因を探り、その子にぴったり合う方法で対策をしてあげれば、問題行動やストレスはちゃんと解消していくことができます。
まずはできることから、環境を整えてみませんか?
過去のブログやインスタの投稿でも、ストレスを減らす具体的なヒントをお届けしていますので、ぜひ参考にしてみてください
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